展開ゼミ:課題解決型(PBL)演習A

2018 Education


概要

近年、自ら問題設定し取り組むような教育としてPBL(課題解決型学習)が注目されています。「モデル化」というキーワードで文理問わず社会問題に取り組むようなPBL型授業として2018年に開講しました。様々な現象を理解して取り組むうえで、私たちは何らかのモデル化(数理モデル等)を行い、計算やシミュレーションなどを用いて検討していきます。ところが、中学~高校において既存のモデル化の手法(運動を、ニュートンの法則で記述する等)を機会が多くても、自ら妥当なモデルを設定する経験は中等教育~大学初等教育ではなかなかありません。そこで、この「モデル化」にフォーカスして受講学生のグループ主体的に一つの問題に取り組み、検証から提言まで行っていくプロセスをサポートしながら進めました。

この授業は4名が受講し、理系学部が2名、文系学部が2名でした。まずは学生に普段疑問に思っていることをブレスト式に一人あたり20個(合計80個)書き出してもらいました。以下はその一部です。

  • 杜だい(川内の杜ダイニング)における、昼飯時の混雑の要因とは?なぜ解決されないか?
  • 小説や本の一番最初の文章と本の評価との関連性
  • 自分達が一日に発する言葉の量とその消費カロリー
  • 私たちが直接的・間接的に一日に消費するCO2の排出量
  • 国ごとに美的感覚が似ている理由
  • 体育館の男子トイレは何故あんな形をしているのか
  • 小麦粉の入ったボウルをひっくり返した後、粉は床にどのように分布するか
  • 第二高校前の交差点はいつが一番混むのか?そしてスクランブル方式は本当に効率的なのか?
  • ゲームをする時、音楽(BGM)によって結果は異なるか?
この中で、生徒の中で相談した上で全員が関心を持って取り組めることができる「川内の杜ダイニングにおける、昼飯時の混雑の要因とは?なぜ解決されないか?」にフォーカスをして取り組みました。

食堂での調査

2018年5月23日のお昼の混雑時に4名の受講生とTA1名で食堂の利用状況の観測を行いました。川内の杜ダイニングではアラカルトレーン、快速レーン(カレー等)、定食レーンと別れています。アラカルトレーンは昼食時に大変混雑するのに対して、定食レーンや快速レーンは比較的待ち時間が少なくすみます。レジは全部で4つあり、混雑に合わせてあけていました。特に混雑の要素となっているアラカルトレーンを重点的に下図のように各々が任意の場所における流入・流出人数を記録し、同時に後から詳しく調べられるように2台の定点ビデオ観測をする形をとりました。

図1 食堂のレーンの構造
図2 食堂での調査の様子

下図は調査結果のうちアラカルトレーンのものです。観測者Aが計測したアラカルトレーンの流入量と、観測者C,Dによる流出量の差から求まる行列の人数の推定値をプロットしています。特に12時~12時10分の間が流入量のピークで、1分あたり50人を超える人数が列に並びます。また、行列の人数はこれに応答して130人を超えていました。

図3 1回目の調査の結果(アラカルトレーン)

学生にこれらの計測から「何が最も行列の人数の支配的要因か?」について考え、議論してもらいました。候補として以下のようなものがあげられました。

  • レジでの処理速度がプリペイドカードを使用せず現金を用いている人によって大きく律速している。
  • 渋滞緩和を目的とした定食レーンがほとんど使われていない。
  • 4つ目のレジをあけたのが12時10分だったが、これが遅すぎるのではないか。
  • 学食の特性上、流入量がお昼休憩直後の短い時間に大きなピークをもつためではないか

次に、これらの候補について簡易的な数理モデルを用いて定量的な議論・予測を行ってもらいました。一人の学生が一般的な待ち行列モデルを用いて十分議論ができるのではないかと提案し、以下のようなpythonコードを元に検討を行いました。

"""
 queue-simulation 待ち行列のシミュレーションコード
 展開ゼミ:課題解決型(PBL)演習A
"""

# モジュールのインポート
import numpy as np
import random
import matplotlib.pyplot as plt

#定数の宣言
MAX_CASHDESK = 4		#最大レジの数
NUM_CASHDESK_ARR = [2,2,2,2,2,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,3,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4]
ENDSTEP = 2400		#シミュレーションが終了するまでに経過する時間(秒)

#計算用の配列の確保
queue_arr = np.zeros(MAX_CASHDESK, dtype=np.int)		#現在列に並んでいる人の数の配列queue_arrを初期化
time_arr = np.arange(ENDSTEP)		#グラフの横軸(経過時間)の初期化
queue_log = []		#列の並んでいる人数の経過ログの初期化
for i in range(0, MAX_CASHDESK+1):
    queue_log.append([])

t = 0		#経過時間(秒)の初期化


"""
関数
"""
def generation_prob(t):		#単位時間(秒)あたりに並ぶ人の数を返す関数
    #観測で得られた典型的なデータ
    GENERATION_RATE = 0.16		#1秒あたりに並ぶ人の数(適当な数字)
    #11:40-12:20における1秒当たりの並ぶ人の数(1分あたり、合計)
    flow_rate_all =[0.000 ,0.100 ,0.050 ,0.150 ,0.050 ,0.233 ,0.217 ,0.300 ,0.217 ,0.167 ,0.133 ,0.217 ,0.350 ,0.367 ,0.267 ,0.600 ,0.450 ,0.300 ,0.183 ,0.283 ,0.617 ,1.200 ,0.833 ,1.067 ,0.767 ,0.850 ,0.417 ,0.250 ,0.050 ,0.217 ,0.000 ,0.000 ,0.000 ,0.050 ,0.050 ,0.050 ,0.033 ,0.017 ,0.017 ,0.033 ,0.000 ]
    #11:40-12:20における1秒当たりの並ぶ人の数(1分あたり、アラカルトのみ)
    flow_rate_alacarte =[0.000 ,0.000 ,0.100 ,0.033 ,0.083 ,0.017 ,0.150 ,0.133 ,0.117 ,0.117 ,0.117 ,0.100 ,0.183 ,0.067 ,0.233 ,0.100 ,0.467 ,0.233 ,0.167 ,0.067 ,0.133 ,0.500 ,0.900 ,0.433 ,0.433 ,0.433 ,0.850 ,0.417 ,0.250 ,0.050 ,0.217 ,0.000 ,0.000 ,0.000 ,0.050 ,0.050 ,0.050 ,0.033 ,0.017 ,0.017 ,0.033 ,0.000 ]
    try:
        return flow_rate_alacarte[int(t/60)]		#1秒当たりの並ぶ人の数を返す
    except:
        return 0		#配列の範囲外だった場合は0を返す

def processing_prob(t):		#単位時間(秒)あたりにレジが処理する人の数を返す関数
    PROCESSING_RATE = 0.08      #1秒あたりにレジが処理する数(平均)
    cach_rate = 0.12     #現金で支払う確率
    #11:40-12:20における1秒当たりのレジが処理する人数(1分あたり、現金)
    process_rate_cash =[0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05,0.05]
    #11:40-12:20における1秒当たりのレジが処理する人数(1分あたり、現金)
    process_rate_card =[0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13,0.13]
    try:
        if random.random() < cach_rate: #
            return process_rate_cash[int(t/60)]        #現金での1秒当たりのレジが処理する人数を返す。
        else:
            return process_rate_card[int(t/60)]        #プリペイドカードでの1秒当たりのレジが処理する人数を返す。        
    except:
        return PROCESSING_RATE      #配列の範囲外の場合は平均値を返す


"""
シミュレーションのmain関数
"""
#シミュレーション開始tが0からENDSTEPまで繰り返す
while t < ENDSTEP:

    #並ぶ人がいるかチェック。いた場合は一番並んでない列に並べる
    if random.random() < generation_prob(t):
        queue_arr[queue_arr[:NUM_CASHDESK_ARR[int(t/60)]].argmin()] += 1
    #レジが処理できた人がいたかそれぞれの列でチェック。いた場合は列の人数を1つ減らす
    for i in range(0,MAX_CASHDESK):
        if random.random() < processing_prob(t) and queue_arr[i] > 0:
            queue_arr[i] -= 1
    #できた列をqueue_logにコピーする
    for i in range(0,MAX_CASHDESK):
        queue_log[i].append(queue_arr[i])
    #合計値をqueue_logの末尾に追加
    queue_log[MAX_CASHDESK].append(sum(queue_arr))
    #時間を進める
    t += 1

#結果をプロット
fig = plt.figure(figsize=(14,9))
#合計値をプロット
plt.plot(time_arr,queue_log[MAX_CASHDESK])
plt.xlabel('time(sec)')
plt.ylabel('queue')
plt.show()

数はこのコードを元に「4つ目のレジをあけたのが12時10分だったが、これが遅すぎるのではないか。」を検討した例です。12時10分の結果は実際の観測した待ち行列人数の推定値の傾向と概ね矛盾がないことが分かり、また少しレジを開く時間を早くするだけで劇的に効果があることが分かります。

図4 4つ目のレジが開いた時間による待ち行列人数の比較

これらの結果を元に提案書を作成し、実際に食堂の担当の方にコンタクトを行い、45分程度のディスカッション・提案を行いました。その結果、以下の二つについて、実際に実証を行ってくださることになり、その上で再度観測を行うことにしました。

  • 観測日に早い時間帯からレジを全てあける。(11時44分から全てのレジを開けた)
  • ピーク緩和のために、学生が作成した呼びかけポスターを一週間電子掲示板に表示をする。
また、提案書はこちらのものを提出しました。
図5 食堂に提案中の様子
図6 混雑時間啓発用の電子ポスター

図7,8は1回目の観測と2回目の提案内容実施時の観測の比較です。図7はアラカルトレーンの流入量を表しています。2回目の流入量の合計はおよそ1回目のおよそ7割と、この日は相対的に来客数の少ない日でした。また、1回目に比べてピークが分散して12時10分以降にも継続的に流入があることがわかります。これはこの日たまたまの現象かもしれないですし、混雑時間啓発用ポスターの効果があったのかもしれません。いずれかは1回ずつの観測では残念ながら統計的に結論付けることはできそうにないです。一方図8の待ち行列の人数は顕著な違いがあります。1回目の観測では130名以上の人がピーク時に待っているのに対して、2回目はせいぜい30名程度で、実際これまで建物の外まで長蛇の列が続いていたのに今回は目に見えて行列がなくなっていました。図7のように流入量が若干少なかったにせよ、それに対して十分有意な差があると考えられます。これはレジを有意に早く開けた効果が大きくあったと考えられます。また、この効果は図4のように待ち行列モデルを用いて定量的に検討した際のものとおおよそ同じ程度であることもわかりました。食堂のレジは一般的に人間が混み始めたと感じてから開けることが多いですが、それよりも一回り早く開ける工夫をすることで大きな効果が得られることが数理モデルによって実証できたことになります。

図7 改善実施後のアラカルトレーンの流入量の変化
図8 改善実施後のアラカルトレーンの待ち行列の変化