MUSASHI実験

2009-2011 Research


概要

東北大学サイクロトロン・アイソトープセンターにおいて、フランシウムを用いた電子の永久電気双極子モーメントの測定の実験準備を進めています。

反物質の物理

素粒子には質量や寿命等の物理量の大きさが等しく、電荷正負が逆の反粒子が存在することが知られています。反粒子は対応する粒子と衝突することで消滅し、質量がエネルギーに変換されて放出されます(対消滅)。この反粒子がいずれもこの世界でほとんど観測されず、実験で用いるためには加速器等が必要になりますが、これはとても不思議な事です。もし本当に物理的な性質が全く同じなら、宇宙が創成された時に生成される粒子の数と反粒子の数は同じになるはずです。その場合このような物質による複雑で豊かな世界は創られなかったでしょう。このことから粒子と反粒子で異なる性質や物理量があるのではないかと考えられます(物質反物質の対称性の破れ)。


ではどのような対称性の破れがあるのでしょうか。近年様々な研究グループが実験的に対称性の破れの検証を行ってきました。C変換(荷電の反転)、P変換(鏡像反転)における対称性は1950年代には破れていることが明らかになっていました。また、これらの積となるCP対称性についても1964年に破れていることが発見されました。ですが、この破れの大きさは宇宙創成を説明するにはまだ不十分と言われており、より大きな対称性の破れの検証が続けられています。


電子には電荷の偏りがあるでしょうか。電荷の偏りによって生じる永久電子双極子モーメントを測定するのが本実験の目的です。電子に永久電子双極子モーメントが存在する場合は、T変換(時間反転)による対称性が敗れていることを意味します。現在最も整合性の高いと思われている標準模型と呼ばれる理論の枠組みでは我々の測定できる精度に比べると十分小さいと考えられています。この値を世界一の精度で測定することが本実験の目的です。

フランシウムを用いた測定


フランシウムのような原子量の大きい原子を用いて測定することで電子の永久電気双極子モーメントが増幅されることが分かっています。私たちは東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターのサイクロトロンを用いて、加速した酸素原子核を金ターゲットにぶつけることでフランシウムの生成に成功しました。


電子の永久電気双極子モーメントは電場と磁場が平行な場合と半平行な場合のスピン歳差運動の違いを測定することで検証することができます。高精度に測定するためには大量に冷却されたフランシウム原子を大量に用意する必要があり、それを実現するトラップ装置を開発しています。